美意識の迷路

美意識の迷路

実はワタシ、建物の中ではすぐ迷子になる人なんですよ。駅でもビルでも、ショッピングモールでも。そんな人間なので、美術館で迷わないなんてことがあるはずもありません。ただ、建物の至る所にギミックが仕掛けられていて、それが美意識に溢れているとなると、そんなストレスも一向に苦にならないのでした。

階段の踊り場がふいに広間になっている場所。そこには、王様が座るような背もたれの長い黄金の椅子と、煌びやかな深紅のカーペット。訪れる人たちはここで足を止めて、思い思いに記念写真を収めてゆくのでした。わりと変なポーズで(笑)

ワタシはその光景を、上の階から見下ろしていたのです。窓から注ぐ木漏れ日の粋な計らいで、赤絨毯に伸びる影。そして、気がつけば、写真を撮っている人たちを写真に撮ってしまっていたのでした。そういうのは、少し気が引けると思うほうだったのですが。

配色の妙と言うのでしょうか。オレンジの額縁の中に飾られているのは、紺色の通路と、ぽつんと灯る向こう側の空間の赤。横目で見た瞬間にカメラを構えていたのは言わずもがな。

ふと気がつけば、ワタシの後ろで同じようにカメラを構えるカエルさんの姿。うん。そりゃ、そうなりますよね。ただ、この通路、次から次へと人が吸い込まれていくので、なかなかシャッターチャンスが訪れなかったのですが。

天窓から、わずかな光芒とたっぷりの木漏れ日が差し込んでいる空間。少し照明を落とした展示室との対比が何とも見事なのでした。ガラスの手すりに、タイルの床に、木漏れ日が静かな模様を描く美しさ。

絵画と絵画の間にある、こうした余白の空間で、ふと心がリセットされる感じがしたのです。寿司で例えるなら、ガリのような存在。次の一皿、いえ、次の展示室へと、気持ちを整えてくれるのでした。

さすがにくたびれました。ほぼほぼ5時間、歩きっぱなしだったのですから。視線の先には、どうやら休憩場でしょうか。ただ、この場所がまたまた美しかったのです。

くすんだオリーブグリーンの壁に、ブラインド越しの光が斜めに差し込んで、それは思わずカメラを構えてしまうほどの美しさ。休憩するために来たはずなのに、どうにも休憩になっていないような気がします。ただ、心のほうは、いつのまにかリセットされていたようですが。

絵画を観るために来たはずなのに、絵画以外のところでこれほど楽しめるなんて。階段、通路、休憩所、その一つひとつに仕掛けられた美意識に、幾度も心が躍ったのでした。そして、それは意外な驚き、と言いたいところなのですが、本当のところ、こういう発見をワタシは密かに期待していたのです。

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